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知りたい!子育て!

約束が守れない。体罰は必要?
〜殴られてもよい人は、ひとりもいない〜

永瀬春美 (篠原学園専門学校こども保育学科 専任講師)

4歳の娘は好奇心旺盛で、何にでも触りたがります。夫の実家に行ったとき、姑の化粧ポーチが気になって、ファスナーを開けたところを見つかり「何してるの!」と手を叩かれました。私が「バーバの大事なものだから」と話してあやまらせ、「もうしないでね。約束だよ」と言うと、娘は真剣な表情でうなずきました。でも1時間もしないうちにまた化粧品をいじり始め、私のしつけが甘いと怒られました。

家では危険なものは見えないところへ片づけていますが、片づけるのではなく「『他人のものには手を出さない』ということを今のうちにきっちり体で覚えさせるべき。でないと将来問題を起こす子になる」と言われると、そうなのかなとも思います。言葉は理解できていると思うのですが、「しない」と約束してもまたやることが家でもよくあります。体罰も必要なのでしょうか。

この手の約束は、大人でも守れないことがよくありますね。たとえば甘い物を控えるとか、運動をするとか。健康のためと頭では理解できるし、指導者の前で「がんばります」と言ったときにはそのつもりだったのだけれど、実際には心の欲求につき動かされてちっとも守れない。そんなとき、約束を守れないあなたを叩いて叱る人がいたら、あなたはどう感じるでしょうか? あなたのためを思って、あなたを真剣に心配して、心を鬼にして叩いてくれたのですから、ありがたいこと? 愛のある体罰は必要、ですか?

4歳の女の子にとって、大人の化粧品はすごく魅力的なアイテムです。日頃は片づけられているのならなおのこと、目の前にあれば触ってみたい衝動にかられて手が伸びてしまうのはとても自然なことです。叩かれる筋合いはありません。もちろん他人のものや店頭の商品など、衝動にかられても勝手に触ってはいけないものがあることを繰り返し教える必要はありますが、教え続けていつか衝動を抑えられるようになるのを「待つ」のがしつけで、今できるようにしなくてもよいのです。幼児に大人並みの分別を求めるのは無茶ですし、今させないと将来できないなんて理屈は大間違いです。あなたも、子どもの頃できなかったことがいろいろできるようになっていますよね。

 

自宅と実家は別ルールでもよい

とはいえ、お姑さんの考え方を変えていただくのは難しいので、ご実家にいる間はその家のルールに適応せざるを得ないと思います。「バーバの大事なものだから」と教えてあやまらせたのは、よい対応でした。叱られても触らないではいられないほどその化粧品が魅力的だったという「気持ち」の部分は認めてあげたうえで、それでも他人の大事なものに触るという「行動」はしてはいけないということを何度でも繰り返し教えてください。教え続ければ、将来問題を起こすようなことにはきっとなりません。

自宅ではこれまで通り、触ってはいけないものは片づける方針で大丈夫。家によってルールが違っても子どもは案外かしこくて、それぞれの場に合わせた行動ができるようになります。家では騒いでもいいけれど、病院では静かにしなければいけないと教えるのと同じことです。

自宅で存分に化粧品に触れさせる機会をつくってもいいかもしれません。親が使うときに「これはこういうもの」と説明しながら安全に配慮して触らせてあげれば、未知のものへの好奇心が満たされて、おばあ様の化粧品には関心がなくなるかもしれません。

 

体罰では、子どもをしつけられない

現在の日本には、「言っても分からないことは体で覚えさせる」といった体罰肯定論を主張する人が少なくありません。「悪いことは悪いと毅然と叱らないから犯罪者が増える」とか「叩かれる痛みを知らない人間は、他人の痛みが分からない」とか、言われると思わず「ああ、そうなのか」と思ってしまいそうな理屈を説く人も多いですし、「自分は叩かれたおかげで道を踏み外さずに済んだ。感謝している」とおっしゃる方もめずらしくありません。真剣にしつけようと思ったら、ある程度の体罰は必要なのでしょうか?

しつけとは、してはいけないこと(大人の身勝手な要求ではなく、社会のルールとして許されないこと)をしないように自分で自分を律する力をつけることです。言っても分からないことを、体罰の恐怖心でやめさせることができたとしても、分かっていないのだから自律には向かわず、反発する気持ちを強める可能性が大きいですし、抑え込まれた悔しさや怒りが、叩く人がいないところで弱い者に向かって発散されるケースも大変多いのです。自分の意に沿わない相手を暴力で従わせるという人間関係の取りかたを、子どもに学習させてしまう恐れも大きくなります。

もちろん「厳しい体罰で目が覚め、立ち直れた」というケースもあります。体罰が恨みや怒りではなく、立ち直る気持ちをもたらすのはどんなときでしょうか? 体罰そのものが有効だったのではなく、「それほど真剣に自分と向き合ってくれた」という実感が、子どもを救ったのではないでしょうか。そうであれば、暴力以外の方法で真剣さを伝えるほうがずっと安全です。

暴力は人の体を傷つける以上に、深く心を傷つけます。いつも自分を責めて追い込んでしまう、自信がなく自己主張できない、なんとなく人間関係がうまくいかない、子どもをうまく愛せない、愛しているのに攻撃してしまう、等々の「生きづらさ」を感じる方々の中には、かつて繰り返し暴力を受けた心の傷の後遺症をかかえていらっしゃる人が少なくありません。

もしこれを読んでいる方の中に、「私が悪いのだから、殴られて当然」と思っている方がいらっしゃったら、「それでも私は、殴られてはならなかった」とご自身に言ってください。どんな理由があっても、暴力は犯罪です。この世の中に「殴られてもよい人」は一人も存在しません。どの人も、大切にケアされなければならないのです。価値のない命は、ひとつもありません。


この文章は「こどもの栄養」誌(こども未来財団)の平成24年1月号に掲載されたものを三芳町の依頼により著者が加筆修正したものです。

 

永瀬春美先生

千葉大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程卒業
東京学芸大学大学院教育学研究科(学校保健学)修了
東京学芸大学附属小金井中学校養護教諭

その後、大学や専門学校での非常勤講師(保健学・免疫学)と「赤ちゃん110番」などの電話相談員をしながら自分の子育て期を短時間勤務で乗り切る。

東京大学医学部家族看護学教室助教、埼玉県立常盤高校看護専攻科教諭、新宿保育園看護師、成田国際福祉専門学校専任講師を経て現在、篠原学園専門学校こども保育学科専任講師
JACC認定臨床心理カウンセラー


ホームページ 永瀬春美の子育て相談室


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